Career Interview 02
自分の技能は道半ば
だから、まだまだ
面白い。
1989年入社
左官ものづくりマイスター/職業訓練指導員(左官タイル施工科)/一級左官技能士/職長・安全衛生責任者
キャリアタイムライン
入社1年目
左官の世界へ
1年ほどタイル職人を経験したのち左官の道へ。最初の現場は道後館(松山市)。父(後に黄綬褒章受章・現代の名工)が職長を務めており、身内だからこそ指導は人一倍厳しかった原点の1年。
4年目 / 20代前半
コンクリート土間打ち
機械化以前の、全手作業の時代。
20代はコンクリート床の仕上げ(土間打ち)を中心に担当。機械化が進んでいない時代ですべて手作業。職人としての基礎体力を身に着けた。
6年目〜
坊っちゃんスタジアム・愛媛県武道館などを担当
松山中央公園の主要施設を歴任。武道館では漆喰(しっくい)や聚楽(じゅらく)といった伝統的な和風建築の壁仕上げを数多く経験。高度な技法の面白さに引き込まれていった。
12年目
職長資格を取得「現場の職人」から「現場を管理する職人」へ
職長等教育を修了し、管理業務をスタート。施工の段取りやデスクワークが加わり、仕事の幅と責任の重さが一変した。萬翠荘(国指定重要文化財)の改修にも携わり、意匠仕上げの世界に本格的に踏み込む。
28年目〜
松山共同高等職業訓練校の講師に。次世代への技能継承
訓練校の講師を務め、若手への指導に本格的に取り組み始める。「見て覚えろ」が通じない時代に、言葉を尽くしてコミュニケーションを取る指導スタイルへと変化。一人ひとりの個性や習熟度に合わせた指導を重ねる中で、職人としてだけでなく指導者としても成長を遂げた。
31年目〜
道後温泉本館の改修。文化財修復と「究極のSDGs」
重要文化財の修復では、古い壁を剥がしながら層を一つずつ分析・記録する。道後温泉本館では何層もの塗り重ねが確認された。古い壁土を練り直して再利用することもあり、自然素材が土に還る日本建築を「究極のSDGs」と言う。最終的に板で隠れて見えなくなる部分でも、完璧に仕上げることが文化財修復の流儀であり、先人の仕事を再現できる腕が職人の誇りだ。
現在
まだまだ道半ば、だから面白い
自身の技能を10段階で問うと「まだ半分(5)くらい」と即答。他に認められる腕前を持つにもかかわらず、上には上がいると語る。勤続38年を経てなお、探求は続いている。
入社38年目のできごと
左官の仕事の難しさと、技能の奥深さを教えてください。
たとえば「洗い出し」という技法があります。砂利を混ぜたモルタルを塗り、完全に乾ききる前の絶妙なタイミングで表面を水で洗い流し、中の石を露出させる仕上げです。早すぎると崩れる、遅すぎると洗えない。その程よい加減を判断するのは、職人の感覚だけです。
同じ材料を使っても、職人の腕ひとつで仕上がりの美しさも耐久性も劇的に変わります。「一級技能士を取ってからが本当の勝負」という言葉がありますが、資格はあくまでスタートライン。取ったあとに何年かけてその感覚を磨くかが、職人としての本質を決めると思っています。
また左官は、練る・運ぶ・塗る・仕上げるとそれぞれ役割があります。チームで補い合いながら仕事を進めるのが左官の現場です。今は一現場の人数が少ないので、一通りこなせる能力が求められますが、だからこそ技能の幅が広がるとも言えます。
入社38年目に思うこと
働き方の変化について教えてください。
入職した頃と比べると、休みはずいぶん増えました。以前は日曜日だけが休みというのが当たり前で、第2・第4土曜日が休みになった時も「もっと働きたい」と思っていたほどです。現在は完全週休2日制となり、休日の予定も立てやすくなりました。そうした環境にも慣れ、今は仕事もプライベートも充実しています。昔は子どもの授業参観にも行けませんでしたが、今は土曜日が休みなので孫の行事にも参加できます(笑)。プライベートが充実すると、仕事への気持ちの切り替えもうまくできるようになりますね。会社が働き方改革に積極的に取り組んでくれたおかげですね。
素材面でも変化がありました。昔はセメントにいろいろ混ぜて補修材を自分たちで作っていましたが、今はメーカーがJIS規格の材料を出していて、厚塗り用・薄塗り用など用途ごとに選べます。濱﨑組では新しい材料を積極的に試して取り入れる姿勢があり、技能と効率の両方を大事にしています。
入社38年目に思うこと
若手の指導で大切にしていることを教えてください。
指導していて一番感じるのは、「伝え方は常に更新しなければならない」ということです。以前は通じていた説明が、世代が変わるとうまく届かないことがある。それは相手の問題ではなく、こちらの伝え方の問題だと思っています。やって見せるだけでなく、言葉を尽くして、それでも伝わらなければまた別の角度から試みる。そういう繰り返しが指導の仕事だと思っています。
人によって理解のペースも、受け取り方も違います。だからこそ、一人ひとりに合った伝え方を探すことを大切にしています。根気のいることですが、上達したと感じたときの手応えは格別です。
左官は、すぐに結果が出る仕事ではありません。でも、続けた先に「できた」という実感がやってくる仕事でもあります。最初から完璧にできる人なんていないので、わからないことがあって当然です。どんなペースの人でも、しっかり一緒に歩んでいける現場を作ることが、今の私の大事な仕事です。
就活中の方へ。
仕事を続けていく中で、技能は経験を重ねるほどに身についていきます。その一つひとつの積み重ねが、自分自身の成長を実感できる大きな喜びにつながります。左官の仕事は、苦労した分だけ完成したときの達成感が大きく、自分が携わったものが形として残る仕事です。失敗や悩みも決して無駄にはならず、次の挑戦への糧になります。資格取得などの目標に挑戦することも、自分の技能と向き合い、自信を積み重ねる大切な機会です。
左官は「人間力」が磨かれる仕事でもあります。幅広い世代が同じ現場で働き、技能だけでなく人としての深みも自然と学べます。器用なことも大事ですが、ものづくりが好きかどうかの方がずっと大事です。
ものづくりが好きなら、まずはやってみてほしいです。形に残る面白さは、やってみて初めてわかります。そう思える仕事が左官です。一緒に現場に出ましょう。
※記事内容、所属は取材当時のものです。